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最高裁判所第二小法廷 平成9年(行ツ)139号 判決 1998年11月20日

京都市山科区勧修寺東金ヶ崎町四四番地

上告人

セルコ株式会社

右代表者代表取締役

吉田昌治

右訴訟代理人弁護士

松本司

村林隆一

今中利昭

浦田和栄

辻川正人

岩坪哲

南聡

冨田浩也

酒井紀子

深堀知子

同訴訟復代理人弁理士

廣瀬邦夫

大津市におの浜四丁目七番五号

被上告人

オプテックス株式会社

右代表者代表取締役

小林徹

右当事者間の東京高等裁判所平成七年(行ケ)第一四三号審決取消請求事件について、同裁判所が平成九年二月二七日に言い渡した判決に対し、上告人から上告があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人松本司、同復代理人廣瀬邦夫の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河合伸一 裁判官 根岸重治 裁判官 福田博)

(平成九年(行ツ)第一三九号 上告人 セルコ株式会社)

上告代理人松本司、同復代理人廣瀬邦夫の上告理由

原判決は民事訴訟法第三九四条後段の法令違背がある。

第一 進歩性について

一 原判決について

原判決は実用新案法第三条第二項(進歩性)の解釈を誤り、その結果、被上告人が主張した取消事由3を肯定するという誤りをおかしたものである。

1 原判決は、甲第2号証並びに甲第3号証の構成より「光束の光路を偏向するために、その前面には水平面を、後面には所定領域にはプリズム面を形成した偏向装置を設けることは、本件考案の出願時、公知であったと認められる。」とし、続けて「甲第1号証に記載されたものの光路を変更する部分にある光路変更手段である複数ミラーを、同じく光路を変更する手段であるプリズムに変更すること、及び、甲第1号証に記載されたものの光路を偏向することなくそのまま通過させる平面に置換することは、当業者にとってきわめて容易であったと認められる。」(原判決30・31頁)と判断した。

そして、特に指摘しておきたい点は、本件考案の登録請求の範囲からではなく、考案の詳細な説明欄における実施例の記載である「受光素子13に接近して図示されていない発光素子が設けられており、たとえば、その発光素子は、断続変調光を出射している。その断続変調光は、前記放物面ミラー12および光学手段16から入射する入射光と逆の径路を通って各監視場所へと出射され、そこで反射されて上記のような入射光として受光素子13で検知される。」との記載から本件考案も甲第2、3号証も同じ技術分野、課題を異にするとはいえないとしている(原判決32・33頁)として、「本件考案と甲第2又は甲第3号証に記載のものは、本件考案とは技術分野も課題も異なる自動車用ヘッドランプに関するものである」との上告人の主張を排斥した。

2 しかしながら、審決(審決23~27頁)の右条項の正しい解釈にしたがえば、甲第2、3号証の技術は、本件発明とは技術分野及び軽を異にし、従って甲第1号証及び甲第2、3号証の技術に基づいて当業者が、本件考案を「きわめて容易に」考案することができたとは判断できないのである。

二 実用新案における進歩性について

1<1> 実用新案法は考案が登録実用新案として保護されるためには、新規性があるというつだけでは足りず、更に、いわゆる進歩性があることを要件としている。

この趣旨は、同法の目的が特許法と同様、考案たる技術的思想の創作を奨励すること、換言すれば、技術の飛躍的進歩(発明の場合で「容易」)にまでには達しないが、自然的進歩(「きわめて容易」)を越えるものを保護し、もって産業の発達に寄与することを目的としているからである。

<2> そうだとすれば、実用新案法第三条第二項の進歩性の判断においては、引用された公知技術と当該考案の構成、従来技術の問題点、技術課題、効果等の異同を判断し、更にこの判断から、当該考案の当業者は引用された公知技術の存在に気付くか否か、また、気付いたとしても、該公知技術を考案の技術に転用すること想到するか否か、更には、その想到が発明の場合の「容易」ではなく、「きわめて容易」か否かの検討が必要となる。

なぜなら、実用新案法の究極の目的は産業発達の寄与であるから、当該考案とは別の技術分野で公知となった技術があったとしても、この技術の転用等が考えられないとすれば、結局は、当該考案の技術の進歩は望めが、産業の発達は望めないからである。

2 原判決は、進歩性の解釈において引用公知技術の存在に気付くか否か、転用を想到することが極めて容易であったか否かの観点を欠落している。

三 技術分野(別紙 国際特許分類参照)

1 本件考案は「複数の場所を同時に光学的に監視するための広角型光電スイッチに関し、防犯用侵入検知器、自動ドア、来客報知器」(本件公告公報第1欄14~16行「利用分野」の説明)の技術分野に属する考案であって、公告公報左肩欄に記載されているように国際特許分類では、「H01H」の電気的スイッチの技術分野に属する考案である。

2 これに対して、甲第2、3号証の技術は、いずれも自動車用ヘッドライトの技術であり、可視光線により自動車の前方ないし前方の路面を照らすを照明に関する技術である。

右はいずれも国際特許分類「F21M」(甲第2号証の1枚目左欄(51)「INT CL」欄、及び、甲第3号証の左肩欄参照)の「非携帯用投光装置またはその系」に属する技術、または「F21V」(甲第3号証の左肩欄参照)の「照明装置、一般的応用の細部」に分類された技術分野の技術である。

3 すなわち、国際特許分類では、本件発明と甲第2、3号証とは、全く異なる技術分野に分類されている。

四 広角型光電スイッチと自動車用ヘッドランプの構造と機能

1 広角型光電スイッチは、一般に、発光素子が発するの断続変調光(近赤外線)が複数の監視場所へと出射され、そこで対象物があれば反射され、この反射光が受光素子で検知されるという構造を有している。

この基本的な構造は、従来技術として紹介されている公告公報第1図のものでも同第2図で示される本件考案(実施例)でも同様であり、

<1> 近赤外線を発する発光素子と受光する受光素子があること

<2> 発光素子及び受光素子は、いずれもミラー(公告公報第1図の従来技術では2、第2図の本件考案実施例では12)に向かって設けられ、外部方向とは反対向きに設けられていること。

<3> 従来例の凹面ミラー(公告公報第1図の2)、及び、本件考案の光学手段(公告公報第2図の16)は、近赤外線の光束を出射し、また、その反射光束を集光できる検知エリア(監視場所)を広くするために設けられている。

2 これに対し、甲第2'第3号証の自動車用ヘッドランプは、自動車の前方を明るく照らす装置であり、

<1> 可視光線を発する光源(甲第2号証のFIG.3の11・12、甲第3号証の各図3)のみ。

<2> 右光源はミラー(甲第2号証のFIG.3のの10、甲第3号証の各図2)と反対方向、即ち、外部方向に向かって設けられている。

<3> 右のミラーは、光源の後方に漏れる光を前方に反射することによって、光の増量ないし前方照射の集中化をはかるものである。

五 技術課題について

1<1> 甲第2、3号証の自動車用ヘッドランプの技術課題は、いずれも自動車の前方をどのようにして効率良く照らすかという点であり、甲第2号証ではヘッドランプを傾斜させてもその光線の照射方向を車軸に平行にすこと、甲第3号証では同じく、光線照射方向を所定方向に向けようとする技術である。

<2> 広角型光電スイッチにおいては、光線の照射方向の限定というのではなく、前記のとおり検知エリア(監視場所)を広くするために光学手段(公告公報第2図の16)から発する近赤外線の光束を複数の方向に出射し、また、その複数の反射光束を集光して受光素子で受光するする必要がある。

従来技術では「光学的に異なる凹面ミラー2a、2b、2c」(公告公報第2欄7~9行)が使用されていた。

2 原判決が認定したように、本件考案の光学手段も複数の光束の出射、反射光束の入射方向を所定方向にする役割を果たしている。

換言すれば、従来技術の凹面ミラーが果たしていた役割を果たしている。

3 しかしながら、本件考案の技術課題は、従来技術の問題であった<1>構造の複雑性、<2>監視場所の変更を容易にするにはどうするか、<3>不必要な監視場所からの光束をどのようにしてカットするかである。

すなわち、単に従来技術の凹面ミラーを本件考案の光学手段に置き換えることにより、光束を所定方向に出射、入射させるという役割おわせたというものではないのである。

4 すなわち、本件考案は、「前面には水平面を、そして後面の中央部から入射する光束をそのまま透過する平面と、当該平面に連なり、他の光束を略平行に屈折する複数のプリズム面とをそれぞれ形成」した光学手段を採用することにより、

<1> 従来例の構成が監視する複数の光束に対応させるため複雑な光学的に異なる凹面ミラー(公告公報第1図の2)を採用していたのを、構造が簡単な放物面ミラーを使用することが可能となり「構成が簡単」な広角型光電スイッチを提供でき、

<2> 従来例(右公報第1図参照)では「監視する光束を増減したり、方向を変更する場合、ケース5を開けて」、ケース5内部の最深部に設けざるを得ない右「凹面ミラーを取り換えなければならず、作業負担が大きい」問題点(右公報第2欄12~15行)を解決し、ケースの前面に設けた前記光学手段を取り換えるのみで「監視する光束の変更を容易に行うことができ」、

<3> 従来例では、「通常、光束A、B、Cが窓面4の近傍で交差することになるために、例えば光束Aをカットしたい場合(テスト時には必ずこの作業が必要になる)に、外部からではカットできず、ケース5を開けて凹面ミラー2aをマスクしなければならず、作業負担が大きい欠点」を、本件考案では外部から光学手段(窓面)の一部をマスキングするだけで可能、即ち、「光束のカットを外部から容易に行うことができる」のである。

以上は公告公報、その補正公報(甲第二三号証の一、二)の考案の詳細な説明欄に記載されているところである。

5 要約すれば、本件考案は複数の監視場所から異なる角度で入射する複数の光束を受光素子に導く構成として、従来例の複雑な凹面ミラーを使用せず、監視する光束の変更、更には、光束のカットを外部から容易に行う構成はどのような構成であるかとの観点から考案された技術なのである。

六 よつて、本件考案と甲第2、3号証の技術は、国際特許分類上も全く別異に分類にされている技術であり、また、構造上も受光素子の有無、放物面ミラーの役割の相違があり、更には、技術課題、作用効果も相違する。

以上からすると、単に、光学に関する分野で共通するからといって、本件考案の当業者は甲第2、3号証の技術の存在に気付くことはないし、また、気付いたとしても右技術を転用して甲第1号証の技術と組み合わせるということは「きわめて容易に」想到するとはいえない。

すなわち、原判決は前記の実用新案法第三条二項の「進歩性」の解釈を誤った結果、被上告人の取消事由3の主張を認め、本件考案の進歩性を肯定した審決を取消すという違法な判断をしたものである。

第二 弁論主義違背

一 原判決の審理においては、取消事由1の要旨変更、及び、甲第一号証と甲第八号証の技術に組み合わせによる進歩性の存否が主たる争点になったものである。

しかるに、原判決は進歩性の存否判断につき、主たる争点ではなかった甲第一号証と甲第2、3号証の組み合わせによる審決の進歩性判断につき、これを誤っていると判断した。

しかも、被上告人も適示していないような本件考案の考案の詳細な説明に記載された発光素子の存在により技術課題が同じと判断したのである。

上告人は右の点につき、十分な反論の機会を与えられず、正に不意打ちの判断となったのである。

二 原判決は弁論主義に違背した違法な判断である。

第三 結論

よって、原判決は破棄されるべきものである。

以上

(添付書類省略)

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